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2010年6月11日金曜日

病床五尺 その28

6月11日 金曜日 

 5時半に眼が覚める。6時に熱いおしぼり。髭を剃ってから顔を拭く。 
 今日で入院してちょうど4週間。 

 髭を剃りながら思いだした。僕が毎朝、おきるとすぐに髭を剃る習慣について。 

 高校2年の秋に僕は初めて家を離れて暮らすことになった。出発の日の朝のことだった。父がやってきて「進、おまえこのごろ無精ひげが目立つのでみっともないから、毎朝これで髭を剃れ、それが身だしなみだぞ」といって、ジレットの安全カミソリを呉れた。なんとなく、元服して短刀を貰ったような気がした。 
 以来、僕は毎朝、洗顔とともに欠かさず髭を剃るようになった。僕は手や足にはほとんど目立つような毛がないが、髭は日本人としては濃いほうで、若い時には、朝髭を剃っても夕方には頬に影がある感じになっていた。 

 40歳ころのことだった。アメリカの小さな町の大学で国際会議があった。夏休みだったので遠方からの参加者は大学の寮に泊まった。2日目の朝だった。ある参加者が僕に電話で、ドイツの有名な学者がなくなったことを知らせてくれた。そこで、僕はかってのボスで学会の創立者でもあるワシントン大学のG教授にこの凶報を知らせようと思った。彼は僕の部屋の近くの部屋にいることは知っていたので、すぐに行って、ドアをノックして声をかけた。 

 ノックにこたえて、G教授は扉を開いて僕の顔を見るなり、Oh, Susumu. Please excuse me my unshaved face! (髭面さらしてごめんなさい)とおっしゃった。僕は思わず自分の頬に手が行ったが、幸い習慣的に髭は剃っていたので、ほっとした。 
 このとき、欧米の習慣では無精ひげは無作法なんだと初めて知ると共に、亡き父に感謝したものである。 

 以来、気をつけてみていると、彼らは朝髭を剃るだけでなく、夜にパーティ-などがあると、いったん部屋(あるいは家)に戻って、着替えると共に髭も剃ってきている。 

 日本でも江戸時代には月代(さかやき)は奇麗に剃っておくのが身だしなみだったようだ。 


 9時ころにリハビリ、今日は平行棒で両手で捕まって往復2回、手放しで短時間なら立てる。片手だけで捕まって往復2回、さらに蟹歩き往復2回をした。さすがに終わってから車椅子に座るのは20分でダウン。

血圧は118と72 体温36.8度

 同室のKさんは退院、有料老人施設「そよかぜ」に行くそうだが、昨日はヘルパーが二人お別れに来たりしていた。11時ころに、「そよかぜ」の人が車椅子で迎えに来て、K看護婦さんさん、N看護婦さんに送られて、我々に手を振りながら去って行った。誰もいないときに、お顔を見せて、「本当はここがいいんだけど、娘のところに近いから移ります」とおっしゃっていた。


 さて、今日の朗報、歩行練習のとき、手を離して立てたこと。またO先生から来週末には退院できそうだと言われたこと。 

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